作品 Works
13×13cm
「春」を字母とする変体仮名の「す」の時間と空間に思いをはせました。もう使われなくなってしまった平仮名に今を生きる日本人が重なる。
トレーシングフィルムにアクリル絵具とソリッドマーカー
86.5cm×54.5cm
私は意識の姿を探り続けている。
文字は意識の「かけら」なのではないか。そう考えて近年私は文字を書いている。
「に」と書いた。「尓」を字母とする現在では使われない変体仮名の「に」だ。
この文字は、古くは中国大陸から伝わり、日本で仮名になり、近現代では使われなくなった文字だ。
字母である「尓」が「しかり」「それ」「なんじ=YOU」などの他者に関わる意味を持ち、
形がアルファベットのYの筆記体に似ていることから、私は非常に興味を持ち書きたいと感じた。
この文字が現代に生きる私と関わるまでには、長い時間と幾多の空間を経ている。
だから、その姿を書く時に、時間と空間を意味するラインは不可欠。
時間と空間を経て受け継がれた意識の「かけら」だからだ。
文字の姿は、人の姿に重なる。
文字が言葉を編むのと、人が社会を構築する様子はとてもよく似ている。
言葉も社会も、時間と空間というステージで、人が作り出すものだ。
時間と空間の中で意識の姿を探ることは、
時間と空間に限定されない大いなる意識を見つめることにつながると同時に、
自分がどのように社会と関わって生きるかを考えることにつながる。
私も意識の「かけら」だからだろう。
トレーシングフィルムにアクリル絵具と油性ペン
40×40cm
「尓」を字母とする変体仮名の「に」。
日本で仮名になり、そして今では使われなくなった。
表す音だけが残ったこの文字を書く。
その姿に時間と空間の中で築かれた意識をみる。
そして、今を生きる私に在り方を語り掛けてくる。
トレーシングフィルムにアクリル絵具
30×15cm(ボックス額装)
このラインは平仮名「み」が現代に生き残るまでに関わった時間と空間を意味する。
「美」を字母とする「み」が今の姿で平仮名として使われるまでには複雑な歴史を経ている。
3000年以上前に中国で産声を上げた漢字が約1500年前に日本に伝わり
そこから時を経て日本語を自由に表現できる文字として仮名が生まれた。
例えば「み」という音なら「見」を字母とする平仮名も場面に合わせて自由に使われた。
しかし明治時代の教育の近代化に伴い「み」という音には今使われている「み」があてられるようになった。
そして戦後にできた規則により一音一字は定着した。
そうした変遷はほとんど知られていないが「み」という文字は現代まで生き続けている。
平仮名という文字は有機的な事象なのではないか。
長い歴史に育まれ翻弄される平仮名。その在りようは今に生きる日本人の姿に重なる。
トレーシングフィルムにアクリル絵具
各30.3×24.2cm(ボックス額装)